秋が深まるとノロウイルスへの備えが話題になります。このとき知っておきたいのは、ノロウイルスには効きにくいとされる方法があり、公的機関が推奨する手段も限られているという点です。本記事では、厚生労働省の情報をもとに、何が推奨されているのかを整理したうえで、次亜塩素酸水を使う場合にどこまでを任せてよいのかを解説します。
1. ノロウイルスは11月から増えはじめる
厚生労働省の資料では、ノロウイルスによる感染性胃腸炎は11月くらいから発生件数が増加しはじめ、12月から翌年1月が発生のピークになる傾向があると説明されています。つまり、備えを整えるなら10月までに手順を決めておくのが現実的です。
ノロウイルスは少量でも感染が成立するとされ、家庭内や施設内で人から人へ広がりやすいことが知られています。発生してから慌てて対応を調べるのではなく、誰が何をどの順番で行うかをあらかじめ共有しておくことが、被害を小さくする最大の要因になります。
2. アルコールが効きにくいとされる理由
ノロウイルス対策でまず押さえておきたいのが、消毒用エタノールの位置づけです。厚生労働省は、消毒用エタノールによる手指消毒は石けんと流水を用いた手洗いの代用にはならないと説明しています。アルコールは補助的な手段であって、主役ではありません。
背景には、ウイルスの構造の違いがあります。アルコールは、エンベロープと呼ばれる脂質の膜を持つウイルスに対して作用しやすい一方、この膜を持たないタイプのウイルスには効きにくいとされています。ノロウイルスは後者にあたります。
したがって、アルコールのボトルを各所に置いてあるから安心、という考え方はノロウイルスには通用しません。手指については、石けんを十分に泡立て、流水で十分にすすぐ手洗いが基本になります。厚生労働省の資料でも、食事前と排便後の手洗いの重要性が示されています。
3. 嘔吐物・ふん便の処理は次亜塩素酸ナトリウムが基本
嘔吐物やふん便の処理では、使用する薬剤と濃度が具体的に示されています。厚生労働省の資料によれば、床などの拭き取りには塩素濃度約200ppmの次亜塩素酸ナトリウム、使用したペーパータオル等を廃棄する際には約1,000ppmが挙げられています。
処理の手順も示されています。使い捨ての手袋とマスクを着用し、ペーパータオル等で静かに拭き取ることとされています。勢いよく拭くと飛散につながるため、静かに、が重要です。
| 場面 | 示されている手段・濃度 | 補足 |
|---|---|---|
| 嘔吐物・ふん便の拭き取り | 次亜塩素酸ナトリウム 約200ppm | 使い捨て手袋・マスクを着用し、静かに拭き取る |
| 使用済みペーパー等の廃棄 | 次亜塩素酸ナトリウム 約1,000ppm | 廃棄時の処理として示されている |
| 調理器具の消毒 | 次亜塩素酸ナトリウム 約200ppm、または亜塩素酸水(遊離塩素濃度25ppm) | まな板・包丁は熱湯(85℃以上)1分以上も有効とされる |
| 加熱による不活化 | 中心部が85℃〜90℃で90秒以上 | 食品の加熱条件として示されている |
ここで注意したいのが、調理器具の消毒として挙げられている「亜塩素酸水」です。名前が似ていますが、これは「次亜塩素酸水」とは別の食品添加物です。当ブログでも繰り返しお伝えしているとおり、この分野は名称が似た別物が多く、読み替えが起こりやすい領域です。資料を読むときは、どの物質の話なのかを一字ずつ確認してください。
4. 日常の清掃で使われる濃度の考え方
嘔吐物の処理と、日常の清掃は分けて考える必要があります。前者は汚染が明らかな場面への対応であり、後者は汚染が起きる前の備えです。求められる強さも手順も違います。
日常の清掃では、まず汚れを落とすことが土台になります。有機物が残っていると、どの薬剤を使っても消費されてしまい、期待した結果になりません。洗剤で洗う、拭き取る、乾かす。この基本があったうえで、必要に応じて薬剤を重ねる、という順序は変わりません。
手が頻繁に触れる場所を決めて、毎日の清掃対象に組み込んでおくことも効果的です。ドアノブ、水道の蛇口、トイレのレバー、手すり、スイッチといった箇所は、家庭でも施設でも共通します。
5. 次亜塩素酸水が向く場面と、任せてはいけない場面
ここまでを踏まえて、次亜塩素酸水の位置づけを整理します。厚生労働省のノロウイルスに関する資料で消毒の手段として挙げられているのは、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸水、そして加熱です。次亜塩素酸水は、この文脈では挙げられていません。
したがって、嘔吐物やふん便の処理を次亜塩素酸水で代替するという判断は避けてください。ここは示された方法に従う場面です。家庭でも施設でも、シーズン前に次亜塩素酸ナトリウムを用意しておくことをおすすめします。
一方で、日常の清掃における物品や環境表面の衛生管理は、次亜塩素酸水が使われてきた領域です。汚れを落としたうえで、有効塩素濃度を確認して十分な量を使う、という原則を守る限り、日々の衛生管理を支える手段として役割があります。要は、平時の管理と、汚染が起きたときの対応を分けて道具を持つ、という考え方です。
- 任せてよい:日常の清掃における物品・環境表面の衛生管理(汚れを落とした後)
- 任せてはいけない:嘔吐物・ふん便の処理(次亜塩素酸ナトリウムを使う)
- 任せてはいけない:手指の消毒(石けんと流水による手洗いが基本)
- 任せてはいけない:食品の加熱に代わる処理(中心部85〜90℃で90秒以上)
6. シーズン前に決めておきたい備えと運用
シーズンに入ってから調べ始めると、判断が遅れます。10月までに次の点を決めて、家族やスタッフ間で共有しておくと、実際に起きたときに動けます。
- 嘔吐物処理のセット(使い捨て手袋・マスク・ペーパータオル・ポリ袋・次亜塩素酸ナトリウム)を一箇所にまとめて置く
- 誰が処理を担当するか、処理中は他の人をどう避難させるかを決めておく
- 次亜塩素酸ナトリウムの希釈方法を紙に書いて、保管場所に貼っておく
- 日常清掃の対象箇所(手が触れる場所)を一覧にする
- 手洗いのタイミング(食事前・排便後・調理前)を掲示する
日常の衛生管理については、使う量が増えるほど「必要なときに必要な量を使えるか」が課題になります。次亜塩素酸水生成機は、必要なときに必要な量をその場で作れることと、生成される水の有効塩素濃度とpHが仕様として示されていることが実務上の利点です。シーズン中は清掃の頻度が上がるため、量を気にせず使える状態を作っておくことには意味があります。導入をご検討の際は、お問い合わせください。
よくある誤解と正しい確認方法
ノロウイルスをめぐるよくある誤解は、「アルコールを置いてあるから大丈夫」「除菌スプレーをかけておけば嘔吐物も処理できる」「名前が似ているから同じように使える」といった理解です。いずれも、示されている方法との食い違いが起きています。アルコールは手洗いの代用になりませんし、嘔吐物の処理には示された薬剤と濃度があります。
確認の手順としては、まず場面を「手指」「嘔吐物・ふん便の処理」「日常の清掃」「食品の加熱」に分けます。そのうえで、それぞれに示されている方法を調べます。次亜塩素酸水を使う場面かどうかは、この切り分けの後に決まります。資料を読む際は、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸水、次亜塩素酸水がそれぞれ別物であることを踏まえて、名称を一字ずつ確認してください。
導入検討時の実務チェック
- 嘔吐物処理用に次亜塩素酸ナトリウムを別途用意しているか?
- 希釈方法と手順を、家族やスタッフが見られる場所に掲示しているか?
- 日常清掃で使うものの有効塩素濃度とpHを確認しているか?
- シーズン中の使用量を見積もり、切らさない体制になっているか?
- 手指は手洗いが基本であることを全員が理解しているか?
参考情報
- 厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html
- 厚生労働省・経済産業省・消費者庁「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html
- 厚生労働省「次亜塩素酸水」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002wy32-att/2r9852000002wybg.pdf
- NITE「新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について」
https://www.nite.go.jp/information/osirase20200626.html

